東京高等裁判所 平成10年(行コ)97号 判決 1999年11月16日
控訴人
椎名多美男
(ほか一六名)
右一七名訴訟代理人弁護士
畑山穣
同
野村正勝
(ほか五名)
被控訴人
神奈川県地方労働委員会
右代表者会長
榎本勝則
右訴訟代理人弁護士
関一郎
右指定代理人
黒田博明
同
井村孝守
被控訴人補助参加人
日本鋼管株式会社
右代表者代表取締役
下垣内洋一
右訴訟代理人弁護士
中原正人
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用(補助参加によって生じた訴訟費用を含む)は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が神奈川県地方労働委員会平成四年(不)第一四号不当労働行為救済申立事件について平成六年四月二七日付けでした救済申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。
3 訴訟費用は、補助参加により生じた訴訟費用を含め、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人及び被控訴人補助参加人
主文同旨。
第二事案の概要
前提となる事実(当事者が明らかに争わない事実)、争点、争点に関する当事者双方の主張など事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人らの当審における主張
1(一) 平成四年二月五日ないし六日ころ、鉄鋼労連日本鋼管京浜製鉄所労働組合(以下「組合」という。)コークス支部長兼創友会製銑部会長柏木剛(以下「柏木」という。)は、組合製銑支部長松田大昭(以下「松田」という。)及び被控訴人補助参加人(以下「会社」という。)労担班長酒井弘(以下「酒井」という。)と面談したが、(証拠略)の記載、松田の任期が当時約六か月も残っていたこと、三月一三日まで役員選挙の創友会推薦候補が決定されなかったこと、労使が対立する春闘時期であったこと、柏木らがこの時期作業長会や工長会の責任者、組合本部、工場長に退任の挨拶をしていないこと、酒井とは日常顔を合わせる機会が少なくないのにわざわざ酒井の部屋を訪問したこと、柏木自身地方労働委員会で支部長候補者選考の過程の一つとして挨拶したと供述することを総合すれば、右面談は、単純な支部長退任挨拶ではなく、組合の役員選挙に際し、創友会の役員候補者選考委員会の推薦した組合製銑支部、コークス支部の両支部長候補者について、酒井に相談協議し、異議がないかどうかの意向聴取であり、酒井はこれを異議を留めず承認したものである。
酒井の右行為は、組合役員選挙の創友会推薦候補の選出に関与したもので、組合役員選挙に支配介入する行為に当たる。
(二) 酒井は、(証拠略)の記載によれば、同年三月一三日午後六時から組合会館で開催された五者合同会議に出席したことが明らかであり、同人は、これにより、両支部役員候補の最終決定に参加し、報告会を兼ねた決起集会において右決定を確認し確定させたものであり、右行為は、組合役員選挙の創友会推薦候補の選出に関与したもので、組合役員選挙に支配介入する行為に当たる。
のみならず、労担班長が労使関係で使用者を代表する地位にあり、労働組合に対し絶大な影響力を有することからすれば、酒井が、右会議に参加すること自体、使用者の中立義務に違反し、創友会推薦候補を使用者が支持することを表明する行為にほかならないのであるから、組合役員選挙に支配介入する行為に当たる。
また、同日川崎市の飲食店で開催された会合は、任意の飲み会であって、コークス班の五者合同会議ではなく、同五者合同会議は、同日製銑班が組合会館で開催した会議と合同で開催されたというべきである。
すなわち、右川崎市内の飲食店で開催された会議には、酒井、コークス班が参加していない上、コークス班の選考委員の山口が出席していないこと、右会合に出席したとするコークス工長会責任者の氏名が不明であること、松田が出席したのは、会議終了直前の八時一〇分ころであり、報告そのものも同人欠席のまま冒頭で終了し、直ぐに酒になったなどの点に照らせば、コークス班の五者合同会議でないことが明らかである。
なお、前記組合会館における会議とこれに引き続き開催された懇親会は、会場、参加者を同じくし、会議開始前からアルコール類、つまみ類が用意されていたのであるから、会議と懇親会は一体であり、創友会推薦候補の報告会兼決起集会というべきであり、全体として創友会推薦候補者を最終的に決定したものである。
2 作業長会及び工長会は、会社の意向を受けて活動しているのであるから、これらが組合役員選挙に関与した行為は、経験則上、使用者の意を体してなされたものと推認すべきである。
3 原判決は、一九八二年の第七期組合役員選挙中、組合エネルギー支部役員選挙に対する支配介入のみを認定したが、会社の支配介入は、右支部のみでなく、全社規模で組織的に行われ、右選挙後も今日まで継続的に行われており、平成四年第一二期役員選挙における会社の支配介入もその一環として行われた。
二 控訴人らの当審における主張に対する被控訴人補助参加人の認否反論
1 一の1ないし3の事実は、否認する。
2 控訴人らは酒井が組合役員選挙の創友会推薦候補の選考に介入した具体的態様を主張立証しないのであるから、その主張は理由がない。
のみならず、酒井が、右候補の選考に関与したり、三月一三日の五者合同会議に出席した事実もない。
(証拠略)の「第一二期の各支部長候補選出を各々の工場<=>会、<―>会、創友会及び労担班長の四者により進めてきましたが、」との記載は、製銑支部長を一〇年務めた松田が退任し、後任の創友会推薦候補も決まったところ、酒井が労使関係の窓口であり創友会と支部長の先輩でもあったことから、柏木が、松田と共に平成四年二月初旬に、挨拶のため酒井を訪れ、その際、後任の支部長候補者の名についても触れたことについて、不用意にこのような不正確な表現をしたものにすぎない。
また、(証拠略)記載の三月一三日の「五者合同会議」の「五者」に労担班長は含まれず、右会議に実際に出席した者、すなわち、製銑班では、創友会、作業長会(会長)、工長会(会長)、製銑支部組合役員、組合役員OB、オブザーバーとしてのコークス支部であり、コークス班では、創友会、作業長会(会長)、工長会(会長)、コークス支部長、製銑支部長であり、酒井は、右製銑班の会議後の懇親会に招待されて挨拶をしたにすぎない。
そして、創友会推薦の製銑支部長候補米村建治(以下「米村」という。)は副支部長からの昇格、同副支部長候補安西武市、同原秋保は、留任又は副支部長に次ぐ要職である労対部長からの昇格、同コークス支部長候補柏木、同副支部長候補佐溝矩久、同堀江裕吉はいずれも留任であり、組合員の誰からも順当な人選と見られるもので、他からの介入の余地はなかった。
第三当裁判所の判断
一 当審も組合の平成四年第一二期役員選挙において労働組合法七条三号が禁止する使用者たる会社による支配介入があったと認めることはできないので、控訴人らの不当労働行為救済命令の申立てを棄却した本件命令に違法があるということはできず、控訴人らの本件請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるので、これを引用する。
1 原判決の訂正
(一) 原判決一三〇頁三行目の「(役員選考委員会ともいう。)」を「(「選考委員会」という。)」と、同四行目及び七行目の「候補者選考委員会」を「選考委員会」とそれぞれ改める。
(二) 同一三一頁七行目冒頭から一三五頁三行目末尾までを次のとおりに改める。
「 平成四年一月中旬ころ、創友会製銑部会の製銑班及びコークス班において、それぞれ選考委員会が発足した。製銑班選考委員会は、柏木、同班幹事長渡辺、創友会会員としての松田、若手の立石及び佐々木が委員となり、コークス班選考委員会は、柏木、同班幹事藤間及び山口並びに若手二名が委員となった。
そのころ、松田は、製銑部会長である柏木から製銑支部長立候補の意思の有無を確認され、その意思がないことを伝え、後任の支部長及び副支部長の候補者の選考を一任させて欲しいと要請し、柏木はこれを了承した。そしてその頃開かれた製銑班及びコークス班の合同選考委員会は、松田に製銑支部の支部長等の候補者の選考を一任した。
そして、同月下旬の第二回の製銑班とコークス班の合同選考委員会が開催され、松田が製銑支部長の後任候補者として推薦した米村副支部長を製銑支部長候補者に、柏木をコークス支部長候補者とすることを一応決定した上、右各候補者について、製銑班選考委員会は松田が、コークス班選考委員会は藤間がそれぞれ製銑、コークスの各作業長会、工長会の責任者から、作業長会、工長会の役職との関係などから人事上の支障がないかという点を含めて右候補者に異論があるか否かを意向聴取したが、格別の異論も出なかったことから、同年二月三日の第三回の両班合同の選考委員会において、両名を正式に支部長候補者として決定した。
同年二月五日か六日ころ、柏木は、松田と共に、創友会の先輩である酒井を訪れ、その際、松田が酒井に対し、自分が今期限りで製銑支部長を退任する旨を告げて挨拶した上、今回の右支部長選挙には、副支部長米村が創友会推薦の支部長候補として立候補する旨述べ、柏木も、酒井に対し、自分が創友会の推薦を受けて引き続きコークス支部長に立候補する旨述べた(<証拠・人証略>)。
同年二月中旬には、両班の選考委員会は、各支部の副支部長候補者の一次案を出し、作業長会及び工長会の責任者の意向を聞いた上、同年三月三日の合同選考委員会でその案を正式に確定した。
そして、製銑班選考委員会主催で、同年三月一三日、午後五時から六時まで、組合会館において、五者合同会議(以下「本件製銑班五者合同会議」という。)が開かれた。その出席者は、渡辺(選考委員会委員)、松田(製銑支部長、選考委員会委員)、柏木(コークス支部長)、作業長会及び工長会の各責任者、その他創友会員約二五名であり、会議では、支部長候補者は米村、副支部長候補者は安西及び原となった旨報告された。会議に引き続き、午後六時から八時ころまで、製銑班の懇親会が開かれた。酒井はこれに招待されて出席し、挨拶のほか、春闘の時期でもあったので、会社の収益状況、生産見通し及び一般の経済動向に触れる話をした。柏木も、右懇親会の冒頭のみに出席した。
コークス班でも、同日午後六時三〇分から八時三〇分まで市内の飲食店でその選考委員会主催の五者合同会議(以下「本件コークス班五者合同会議」という。)及び懇親会が、開かれた。その出席者は、当初、前記懇親会を中座してきた柏木(選考委員会委員、コークス支部長)、藤間(選考委員会委員)、作業長会及び工長会の責任者であり、同会議では、支部長候補者は柏木、副支部長候補者は佐溝及び堀江となった旨報告された。引き続き行われた懇親会には、松田(製銑支部長)も遅れて参加した(<証拠略>)。」
(三) 同一四一頁七行目冒頭から一四二頁一行目の「票読みを行った。」、までを次のとおり改める。
「(三) 製銑部会では、平成四年五月二日、製銑部作業長会が主催で、「製銑部五者合同交流ソフトボール大会」が多摩川グラウンドで開かれた。参加チームは、製銑部作業長会、製銑班の工長会、コークス班の工長会、製銑支部、コークス支部、製銑部創友会及び職制の七チームであった。参加費は、各チームが支払った。」
(四) 同一四六頁二行目冒頭から一五二頁一〇行目末尾までを次のとおり改める。
「(二) そこで、(証拠略)にいう「五者」に、労担班長酒井あるいは非組合員である職制が含まれるか否かを検討する。
(1) 控訴人らは、(証拠略)にいう「五者」とは、その前行の「労担班長を含む四者」を受けて記載されたものであること、平成四年五月二日開催の「製銑部五者合同交流ソフトボール大会」に、職制チームが参加していることから、右「五者」に労担班長が含まれることが明らかである旨主張し、控訴人椎名多美男は、地方労働委員会の審問において、職場感覚では、「五者」という用語が非組合員である職制を含む意味で使用されている旨供述している(<証拠略>)。
(2) 「五者」、「職制」とは何かについては、誰が五者を決めるのか、その目的は何か、それに、「職制」という言葉はどのように使われているかを検討しなければならない。
まず「五者」という言葉は、元々組合支部において、重要事項を検討するための役職の数を意味した。例えば、組合製銑支部が平成四年に発行した文書(<証拠略>)には、「五者合同会議9/21(原(秋)、生田目、佐々木、原(耕)、立石、新井)」と記載され、右記載によれば、原秋保副支部長、生田目安全衛生部長、佐々木組織部長、原耕治厚対部長、立石労対部長、新井教宣部長の支部役員六名が出席する会議が「五者合同会議」と呼ばれている。これらの場合、「五者」という用語は、組合内部において、組合役職を指す用語として使用されており、その検討事項により参加する役員は異なり、数は五名でなくても「五者」と称されており、「五者」に含まれる役職の範囲は、「五者」という用語自体から一義的に定まっているものでない(<証拠略>)。
また、「五者」は、創友会の班等の連絡会の構成員を示すものとしても使われるようになった。例えば、昭和六〇年一二月一〇日発行の創友会「コークス班だより」(<証拠略>)には、「五者合同連絡会」の対象者として、「全役員<=><―>会支部40(名)」と記載され、これはコークス班の役員、作業長会、工長会及びコークス支部(又は同支部及び製銑支部)を指すものと解されるが、労担班長を含む職制は対象者となっていない。
また、前記のとおり、「五者合同交流ソフトボール大会」の参加チームは五チームではなく、七チームであること、右大会は、「製銑部と組織との間の交流と親睦」を図る目的で計画されたもので(<証拠略>)、この目的からすれば、さほど「五者」に重要な意味があるとは解されない。したがって、創友会、製銑及びコークスの作業長会、製銑班工長会、コークス支部及び製銑支部、職制の五つと数えることもできれば、製銑支部とコークス支部とを二つと数え、職制は招待チームと解することも可能であろう(ただ、後記の本件各五者合同会議の構成員からみて、後者の可能性が高いようにみえる。)。
(3) 以上の点からは、五者の内容は確定できず、結局、本件各報告会の五者が何かは、その出席者等から判断せざるを得ない。
前記のとおり、本件製銑班五者合同会議の出席者は、渡辺(選考委員会委員)、松田(製銑支部長、選考委員会委員)、柏木(コークス支部長)、作業長会及び工長会の各責任者、その他創友会員約二五名であるところ、渡辺は選考委員会の委員であり、創友会製銑班の幹事長であるから創友会を代表しているとみられること、松田及び柏木は選考委員会の委員ではあるが、それぞれ製銑支部長及びコークス支部長としての出席とみられること、この他作業長会及び工長会の各責任者を合わせると五者となること、他方、本件コークス班五者合同会議の出席者は、当初、柏木(選考委員会委員、コークス支部長)、藤間(選考委員会委員、コークス班幹事)、作業長会及び工長会の責任者であり、松田(製銑支部長)も懇親会に遅れて参加したこと、酒井はいずれの報告会にも出席していないことから、本件各報告会の五者とは、創友会、作業長会、工長会、製銑支部及びコークス支部を指すものであり、労担班長または非組合員である職制は含まれないと解するのが相当である。
ちなみに、控訴人らは、(証拠略)には、「役選々考委員会 三役<=><―>職制 7(名)」と記載されているのは、非組合員である職制を意味し、会社が役員選挙に関与していることを示すというが、職制は、非組合員を意味する場合と非組合員及び作業長及び工長を加えたものを意味する場合があり(<証拠略>)、同号証の「職制」は、作業長及び工長を意味することが明らかである(もしこれが非組合員である労担班長等を意味するものであれば、コークス班は、役員選挙の候補者選任にこれらの者を加えていることをその機関紙で公表していることになり、組合員から直ちに非難の声が挙がったはずであるが、その形跡はない。)。
したがって、酒井は、本件各五者合同会議の一員ではなく、また前記のとおり、これに出席したことはない。
(3)(ママ) 控訴人らは、同日川崎市の飲食店で開催された会合は、任意の飲み会であって、コークス班の五者合同会議ではなく、同会議は、同日製銑班が組合会館で開催した五者合同会議と合同で開催された旨、組合会館で開催された右会議と懇親会は一体を成す創友会推薦候補の報告会兼決起集会というべきであり、全体として創友会推薦候補者を最終的に決定した旨各主張するが、(人証略)に照らすと、控訴人らの右主張事実は認められない。
(三)(ママ) 以上によれば、創友会の組合支部役員推薦候補選考過程において、労担班長酒井は、平成四年二月五日か六日ころ、製銑支部長松田及びコークス支部長柏木と面談し、両名から、松田が今期限りで製銑支部支部長を退任し、その後任の支部長候補者として米村が推薦されており、柏木が創友会の推薦を受けてコークス支部長に引き続き立候補する予定であるという話を聞いたこと、同年三月一三日、本件製銑班五者合同会議終了後、引き続き開催された懇親会に招待を受けて出席し、挨拶を行い、春闘時期であることを踏まえて、会社の収益状況、生産見通し、生産状況、一般的経済動向に触れる話をしたことが認められるが、それ以上に、創友会の支部長推薦候補の選考に影響力を行使したり、これに関与した事実は認めるに足りず、控訴人ら主張の酒井による介入行為があったとは認めるに足りない。」
2 控訴人らの当審における主張について
(一)(1) 控訴人らは、平成四年二月五日か六日ころの松田、柏木と酒井との面談は、創友会の役員候補者選考委員会の推薦した組合製銑支部、コークス支部の両支部長候補者について、酒井に相談協議し、異議がないかどうかの意向聴取であって、同人はこれを異議を留めず承認したものであり、同人の右行為は、組合役員選挙の創友会推薦候補の選出に関与したもので、組合役員選挙に支配介入する行為に当たる旨主張する。
(2) 前記(証拠略)中には、「一月段階から創友会の指導により、第一二期の各支部長候補選出を各々の工場<=>会、<―>会、創友会及び労担班長の四者により進めてきましたが、両支部とも、三月一三日の五者合同会議に於いて、最終結論に至りましたので御報告し、今後の御協力をお願い致します。」との記載があり、柏木が、地方労働委員会における審問において、「選考の過程ということで、挨拶も一つの過程として入れ」た旨供述し(<証拠略>)、松田の製銑支部長の任期満了が同年八月三一日であったことが認められる(<証拠略>)。
また、前判示の事実及び証拠(<証拠略>)によれば、平成四年二月五日か六日ころ、松田は、退任の挨拶のため、柏木と共に、酒井を訪れ、その際、松田が酒井に対し、自分が今期限りで製銑支部支部長を退任する旨を告げた上、今回の右支部長選挙には、副支部長米村が創友会推薦の支部長候補として立候補する旨述べ、柏木も、酒井に対し、自分が創友会の推薦を受けて引き続きコークス支部長に立候補する旨述べ、右支部長選挙の創友会推薦候補者名に関する話し(ママ)をしたことが認められる。
しかしながら、創友会における製銑支部及びコークス支部の各支部長候補者は、前記のとおり、同年二月三日の各選考委員会において、正式に決定しており、その後は、三月一三日の製銑班及びコークス班の各本件五者合同会議で右委員会の選考結果を報告する手続きが残されているだけであって、松田、柏木の両名が酒井に面談した同年二月五日か六日ころの段階では、松田、柏木の両名が酒井の承認を求めたり、その意向を聞いたりする状況にはなかった。また、副支部長候補者については、その後に選任手続きが開始され、松田や柏木はこれにつき何ら酒井に話をしていない。組合支部長と労担班長とは、労使関係の窓口として、日常から接触する機会も多く、また、酒井は、柏木のコークス支部長の前任者でかつ創友会の先輩であったことも考え併せれば、柏木が、松田の製銑支部長退任が組合内で事実上定まったので、同年八月三一日の退任前に、やや早めではあるが、酒井に対し、松田から退任挨拶をさせようとしたことや、その時期として同人の後任推薦候補者が右選考委員会で決定された直後を選び、儀礼上、柏木と松田の方から酒井を訪れたことは不自然であるとはいえない。(証拠略)は、「工場<=>・・・労担班長の四者により進めてきた。」旨記載されているが、酒井が右のように松田及び柏木から候補者につき話を聞いたこと以上に選挙に関し何らかの関与をしていることを認めるに足る証拠がないことに照らすと、柏木の(証拠略)の作成の経緯に関する右供述も首肯できる。
右事実に前判示の各事実及び前掲各証拠を総合すれば、(証拠略)の右の記載は、松田の右退任挨拶の際、柏木、松田両名が、右各支部長候補者名を酒井に告げたことについて、不正確な記載をしたものと認められ、控訴人ら主張の証拠によっても、松田、柏木が、右面談の際、酒井に対し、右支部長候補者について、異議がないかどうかの意向聴取をしたり、酒井が、これを承認するなど組合役員選挙の創友会推薦候補の選出に関与した行為があったとは認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人らの右主張は理由がない。
(二) 控訴人らは、酒井が、同年三月一三日午後六時から開かれた製銑班、コークス班の五者合同会議において、両支部長候補の最終決定に参加し、報告会を兼ねた決起集会において右決定を確認し確定させたものであって、酒井の右行為は、組合役員選挙の創友会推薦候補の選出に関与したもので、右各行為又は右会議に参加したこと自体が組合役員選挙に支配介入する行為に当たる、右会議は、製銑班とコークス班の合同の五者合同会議であり、会議と懇親会は一体を成す創友会推薦候補の報告会兼決起集会というべきである旨主張する。
しかし、(証拠略)にいう「五者」には、労担班長ないし非組合員である職制は入らないこと、酒井は、同年三月一三日に開催された創友会製銑部会製銑班及びコークス班の本件各五者合同会議のいずれにも出席していないこと、酒井は、松田の依頼に応じ、懇親会に出席して、春闘時期であるので会社の経営状況等の話をしたに過ぎないこと、組合会館で開催された製銑班の本件五者合同会議がコークス班のそれと合同で開催され、かつ右会議と懇親会が一体を成し、全体として創友会推薦候補者を最終的に決定したとは認められないことは、前判示のとおりであるので、控訴人らの右主張は採用できない。
二 以上によれば、控訴人らの本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であるので、本件控訴はいずれも棄却することし(ママ)、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六五条、六六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 一宮和夫 裁判官 大竹たかし)